人間とウェブの未来

「ウェブの歴史は人類の歴史の繰り返し」という観点から色々勉強しています。

IPSJ-ONE 2016で登壇してきた - 確実に時代は変わってきている #ipsjone

先日、慶応義塾大学で開催された情報処理学会全国大会のトリのビッグイベントであるIPSJ-ONE2016で登壇してきました。

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IPSJ-ONEとは、

IPSJ-ONEは、時流に乗る日本の若手トップ研究者19名によるライトニングトーク形式の登壇を俯瞰することで、 今後の情報社会に向けての研究動向を広く一般の人々に発信するために企画されました。

今、最先端研究を知ることは、ビジネスや学生の進路決定、メディア戦略などに繋がります。 「IPSJ-ONE」では、そうした最先端研究を一流の研究者による平易な解説で聞くことができます。

情報処理学会では、現在39分野の研究会にて各分野の専門家たちが日々議論を深めています。 今回も昨年に引き続き、各研究会による推薦、IPSJ-ONE企画・実施委員会による審査により、分野を超えたインパクトを有する19名の気鋭の研究者を招待いたしました。 それぞれ約5分の持ち時間でトークを行います。 「IPSJ-ONE」は情報学の専門家だけでなく、一般の方々も最先端の研究を楽しく知る絶好の機会となっています。

という大変素晴らしいイベントで、各研究分野から選りすぐりの若手トップ研究者が発表するという趣旨の中で、僕自身もインターネットと運用技術研究会(IOT)からの推薦の後、委員会による審査を経て登壇者として参加することができました。

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確実に時代は変わってきている

本番の動画やスライド、ツイッターまとめについてはtwitterで #ipsjone タグを確認すれば沢山見つかると思うので省略して、このイベントを通じて感じた事を書きます。

それは上記にも書いた通り、「確実に時代は変わってきている」ということです。

というのも、今回も前回も、大学や研究所、NTTさんといった超大企業の面々の中で、僕が学術研究とは遠い「GMOペパボ」として登壇出来たことは、実は時代が変わるその時点に立てているのではないかと思ったのです。えっそんなこと?と思うかもしれませんが、今回IPSJ-ONEの趣旨と照らし合わせた時にも色々と思う事があります。

例えば、企業からみても学術研究分野というのはなかなかに敷居が高く、特に技術者からみても学術研究への壁は高く、研究に興味を持っていたとしても、「どうすればあのような場に立つ事ができるのか」「世界だ!英語だ!という話ばかりを聞くので自分にとってはずっと遠い世界なのか」と思って、結局研究はしたくてもその壁のどこかにあるドアを見つけられないまま、あるいは、その高い壁を登り切ることができないまま諦める人たちが多いように思います。

今回のIPSJ-ONEの趣旨にもあるように、「中高大学生へも平易な日本語でわかりやすく最先端の面白い研究を5分で説明する」という方式は、中高大学生だけでなく企業で研究に興味を持っている人たちにも研究の面白さを伝える事ができました。さらには、情報系ではない全く他分野の研究者に日本の情報学の研究を知ってもらえるという副作用もあったように思います。(実際に海外の地質・地震の研究者にフィードバックを頂けた)その結果、研究への興味という視点では日本の優秀な若い人たちに知ってもらう事ができて、それが数年後にもし結果として研究を志す人達が増えれば大成功だと思います。

しかし、それだけではだめで、若い人達の中でもすでに社会人になっている人たちや、大学をでて技術力を高める中で研究に再度興味を持った人たちも実は沢山いて、どうすれば彼らがその壁をもっと乗り越えやすくなるか、壁についたドアを探しやすくするか、という点については解決できていませんでした。大学時代には研究する事の意義が理解できなかったとしても、企業で仕事をする中で再度問題意識がうまれ、研究を志したい人は沢山いることを忘れてはなりません。得てしてそういう人達は優れています。しかし、そうはいっても「研究していくには大学や研究所、あるいは大きな企業に所属しないと難しいのか」「そもそも研究会や学術研究のイベントで自分達は発表してもよいのか」などという彼らの思いが錯綜していた中、研究所も特に無く、学術研究機関ともほとんどつながりのない企業である「GMOペパボ」所属で僕が発表できたことは、その問題、あるいは、その障壁を解決可能だという証明になったのではないかと思うわけです。

これまでは、「どうせ大学とか大きな研究所にいないと、面白い研究していてもダメなんでしょ?」みたいな思いが大きな障壁になっていたのだと思うのですが、そんなことはなく、「ちゃんと面白い研究をしていればどこにいたって大丈夫」と、僕の登壇によって証明できたことになるんではないでしょうか。もちろんそれができたのは僕の力だけではなく、会社の理解や、純粋に研究を評価していただけるIOT研究会の先生達の存在、そこから推薦によって、最終的にIPSJ-ONEの委員を担当している選りすぐりの研究者や先生達の審査についても同様である、という、とても平等で世間に開かれた体制があったからだと思います。誰でも研究したい人は研究会を見つけて自由に参加して発表すればよいのです。企業の場合でも研究室を見つけて相談に行ったり一緒に研究をやれば良いのです。研究活動はそのように開かれているべきなのです。

僕自身、学部時代から研究をしたいと思っていたけど、まずは社会人に入社して現場の技術を学んでから、再度大学に戻るというキャリアを進んだわけですが、その中で技術者と研究者の狭間ですごく悩んでいる人が沢山いたし、上記で述べたような壁を感じて前へ勧めなかった人は沢山見てきました。実際今でも見ます。ですので、僕自身、研究をやっていく目的の一つとして、「技術者と研究者の壁を壊す」「研究はもっと開かれた場所であるべき」を持っていたのですがが、それがようやく、壁が薄く低く、少なくとも研究を再度志す人達が壁についたドアに手をかけられるようにになったのではないかと思うと、自分のこれまでの活動を思い返しつつも感慨深いわけです。

繰り返しになるのですが、「研究できる環境があって、面白い研究をしているのであれば所属なんてどうでも良い」なんていうのは間違いなく正しい事なのですが、それが「本当にそうなのか?」とみんなを説得できる方法がなかったわけですが、それが今回、学術研究とは遠い位置にいる「GMOペパボの松本亮介」として発表できたことは、自分にとってはとてつもなく価値のある、答えの出せていなかったことに対する答えを自らの活動によって導けた事、それを実現するためにIOT研究会の皆様やIPSJ−ONE、ひいては、情報処理学会の皆様の支えがあった事は、「確実に時代は変わってきている」と明言できるに至った素晴らしいイベントになったと思うのです。

そう、あなたが思っている以上に研究の世界は広く開けているのです。

さいごに

さいごに、「時代は変わった」ではなく、なぜ、「時代は変わってきてる」と書いたのか。それは、今回の事をこの一回だけにしていては意味が無いからです。こうやってみなさんの協力によって切り開いてこれた道を、さらに次の世代の技術者や研究者にも引き続き活動していただき、この流れをより強くしていかなければいけないと思うからです。

大学を出て業務の中で知識を得て「でもこれもっとこうすれば良いよなぁ」と実装はむずかしくてもアイデアが出てきて、でもそれは会社の仕事をフルタイムでしながら実現するのは難しい場合が多いだろうと思います。そういう時に、会社の業務の中で、研究室の指導を受けつつ研究として取り組むことで、最終的にはよりブラッシュアップされたアイデアとその実装まで実現でき、その体験が自分でも世界を切り開いていけるんだという自信や誇りになっていくはずです。

こういう取り組みを会社が当たり前にサポートして、会社に所属しつつも研究ができる環境を整える事はこれからの時代大切だと思っているし、それが結果的に会社の事業を差別化する技術に繋がると考えています。差別化する技術、あるいは、新規性のある技術を考える力は、知識の共有のサイクルを伝統的にまわしてきた学術研究の体制をもっている機関が得意だからこそ、それを一緒に学ぶべきなのだと思います。

先日もツイートしましたが、

技術者も研究者も世界に何か一石投じるには色々方法があって、論文書いて国際会議で発表するのも良いし、OSSを公開して世界中で使ってもらえるようにするのもまた良いし、やり方は沢山あるので色々な方向性で一石投じれば良い。その気概さえあれば爪痕は残せるはずだし互いに壁を作る必要はない

と思っているので、この流れをこれからも途絶えさすことなく続けていくのが、僕の新たな目標だと思っています。

というわけで長くなりましたが、みなさんお疲れ様でした!!!!!!!!!!

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僕のスライドに興味ある方は以下を御覧ください。